《労働ルールの豆知識》

見落としがちなテーマ、知っておきたいテーマなど取り上げてご紹介します。


【求人票と異なる労働条件で雇い入れる場合には】

先日、相談にお越し下さった社長さんのお話を伺いましたら、

従業員と労働契約書を交わしていない、とのことでした。

労働契約を締結する際は書面にすることが義務付けられていますが、

新設した会社や小規模な会社等では、口頭のみのケースが多いのかもしれません。《

 

求人票の労働条件と実際の労働条件が異なることってアリ?》

従業員を雇入するとき、求人票や求人広告を出しますよね。

その求人内容を検討して求職者が応募してくるわけですが、

皆が皆、その内容の通りの労働条件で就職するわけではありません。

民間の求人広告を見ていますと、例えば賃金額など、モデル賃金などと称して、実際には経験豊かなスーパー営業マンしか実現できないような金額が掲載されていたりします。

そこまで極端ではないにしても、求人内容には多少のイロがついていたりしますよね。

 

求人内容と実際の労働条件が異なる場合について、裁判例では、

「求人票に記載された基本給額は『見込額』であり、文書上も、・・・・最低額の支給を保障したわけではなく、・・・・誇大賃金表示によるかけ引ないし増利のための賃金圧迫を企図したなど社会的非難に値いする事実は認められない。」

(昭58.12.19東京高判)

として、求人広告の内容に法的拘束は認めていません。

だから、そのような求人広告になっていても問題ではなく、

実際に契約を結んだ労働条件の内容が優先する、というわけですね。

 

ところで、別の裁判例では、

「職業安定法の趣旨は、戦前のようにありもしない好条件をちらつかせて労働者を勧誘し、実際には劣悪な労働条件を労働者に強いるというような弊害を除去するためと解される」

とし、

「求職者も求人票の記載がそのまま労働契約の内容となることを前提にして・・・・どの企業に応募するか決定していることを考慮すると・・・・当事者間において求人票記載の労働条件を明確に変更し、これと異なる合意をする等特段の事情のない限り、求人票記載の労働条件のとおり定められたものと解するべきである。」

(昭58.10.19大阪地判)

としています。

つまり、求人票と実際の労働条件が異なる場合には、きちんと会社と求職者の間で合意する必要がある、というわけですね。

 

《求人票と異なる労働条件について争った昨年の裁判例》

昨年、平成29年3月30日の京都地裁の裁判例があります。

この事件は、

・求人票記載の労働条件と、実際の労働条件が異なる

・労働条件通知書に署名押印したのは就労開始から2週間経過後である

というものです。

判決では、労働契約の成立内容について、

「求人票記載の内容で労働契約が成立している」

としています。

 

え!?

求人票記載の労働条件には法的拘束を認めていないって言ったじゃん。

 

そうではないのです。

この事件では、面接の際に求人票とは異なる労働条件の説明がないまま採用通知されている、という点に問題があったのです。

つまり、前出の大阪地判で示した、

「当事者間において求人票記載の労働条件を明確に変更し、これと異なる合意をする等特段の事情のない限り、」

という条件を満たしてしない、ということなのです。

本件では、就労開始2週間後になって、ようやく求人票と異なる労働条件を示してします。

ですので、会社が採用通知を出した時点では、労働契約が求人票記載の内容で締結されてしまった、というわけなのです。

そして、この労働条件通知書への従業員の署名捺印については、「労働条件の変更」の手続であると、判示しています。

 

労働契約の内容自体は求人票どおりになってしまったとしても、

「労働条件の変更」の手続により、実際の労働条件に変更できたのなら、問題ないのでは?

 

ところが、そう簡単な話ではありません。

確かに、労働条件の変更は、使用者と労働者との間で合意することで変更できます。

が、判決では、

使用者の指揮命令下にある労働者には、自由な意思決定を行ないづらい、

ということを認めています。

すなわち、使用者と労働者の「合意」に不備があると認定されてしまったわけですね。

 

《まとめ》

ですので、求人票の内容と実際の労働条件が異なる場合は、

面接の際に、きちんと説明して求人者に納得してもらい、

その上で、採用内定の時点で、実際の労働条件が記載された労働条件通知書に署名捺印をしてもらうようにしましょう。

 

何事も手順が大切なのです。


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